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東京地方裁判所 平成8年(特わ)2433号 判決

本店所在地

東京都江東区潮見一丁目二〇番七号

株式会社はせべ

右代表者代表取締役

長谷部修

本店所在地

東京都中央区築地五丁目二番一号

株式会社長谷部商店

右代表者代表取締役

長谷部憲司

本籍

東京都杉並区和泉三丁目九四六番地

住居

同都同区和泉三丁目三四番二四号

会社役員

長谷部憲司

昭和一八年三月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介、弁護人岡部保男各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社はせべを罰金一六〇〇万円に、被告人株式会社長谷部商店を罰金一一〇〇万円に、被告人長谷部憲司を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人長谷部憲司に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社はせべ(平成四年一一月一日組織変更以前は有限会社はせべ商店。以下「被告会社はせべ」という)は、東京都江東区潮見一丁目二〇番七号に本店を置き、海産物等の販売及び加工等を目的とする資本金四〇〇〇万円(同年八月一八日以前は一〇〇〇万円)の株式会社であり、被告人株式会社長谷部商店(以下「被告会社長谷部商店」という)は、同都中央区築地五丁目二番一号に本店を置き、海産物等の販売及び加工等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人長谷部憲司(以下「被告人」という)は、被告会社はせべの実質経営者及び被告会社長谷部商店の代表取締役として、右被告会社両社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、

第一  被告会社はせべの業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  同三年九月一日から同四年八月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が七九〇四万〇二四二円(別紙1(1)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同四年一〇月三〇日、同都江東区猿江二丁目一六番一二号所在の所轄江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九七六万四五五五円で、これに対する法人税額が二八五万二三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成八年押第一八五六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二八八三万〇八〇〇円と右申告税額との差額二五九七万八五〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ

二  同四年九月一日から同五年八月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が七四四五万七三六四円(別紙1(2)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五年一一月一日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六八六万五四九一円で、これに対する法人税額が一八七万八四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二七一一万七五〇〇円と右申告税額との差額二五二三万九一〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ

三  同五年九月一日から同六年八月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が七〇九七万七七四三円(別紙1(3)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同六年一〇月三一日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五四八万八四二九円で、これに対する法人税額が八七六万〇四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二五八一万八八〇〇円と右申告税額との差額一七〇五万八四〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告会社長谷部商店の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  同三年六月一日から同四年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が四七七五万八七七九円(別紙3(1)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同四年七月三〇日、同都中央区新富二丁目六番一号所在の所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六六八万一九二三円で、これに対する法人税額が一七三万九八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の4)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一七〇一万八三〇〇円と右申告税額との差額一五二七万八五〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

二  同四年六月一日から同五年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五六七七万五六九〇円(別紙3(2)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同五年八月二日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七六一万三五七七円で、これに対する法人税額が一九八万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇三八万七九〇〇円と右申告税額との差額一八三九万八九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

三  同五年六月一日から同六年五月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五六九四万七六〇四円(別紙3(3)の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、同六年七月二九日、前記京橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九九六万八八二七円で、これに対する法人税額が二八一万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の6)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇四三万四三〇〇円と右申告税額との差額一七六一万七一〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものであある。

(証拠の標目)

〔括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。〕

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(乙一ないし六)

一  長谷部孝(甲五〇)及び長谷部修(甲五一)の検察官に対する各供述調書

一  長谷部千春(甲五二)、松岡寛(甲五八)及び畠山照人(甲五九)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

判示冒頭の事実について

一  登記官作成の履歴事項全部証明書(乙七)、閉鎖事項全部証明書(乙八)及び登記簿謄本(乙九)

判示第一の各事実について

一  長谷部千春(甲五三、五四)及び畠山照人(甲六〇)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の期首商品棚卸高調査書(甲一)、仕入高調査書(甲二)、福利厚生費調査書(甲四)、接待交際費調査書(甲一〇)、旅費交通費調査書(甲一一)、修繕費調査書(甲一四)、受取利息調査書(甲一六)、割引債券償還益調査書(甲一七)、雑収入調査書(甲一八)、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書(甲二三)及び事業税認定損調査書(甲二五)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲六一)

判示第一の一及び二の各事実について

一  大蔵事務官作成の期末商品棚卸高調査書(甲三)、支払手数料調査書(甲七)及び車両費調査書(甲九)

判示第一の一及び三の各事実について

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書(甲二〇)及び交際費等の損金不算入額調査書(甲二四)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲七三、七五)

判示第一の一の事実について

一  大蔵事務官作成の外注加工費調査書(甲八)及び為替差益調査書(甲二一)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成八年押第一八五六号の1)

判示第一の二及び三の各事実について

一  大蔵事務官作成の事務消耗品費調査書(甲一二)、支払利息・割引料調査書(甲一九)及び為替差損調査書(甲二二)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲七九)

判示第一の二の事実について

一  大蔵事務官作成の広告宣伝費調査書(甲六)、租税公課調査書(甲一三)及び保険料調査書(甲一五)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲七四、七八)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第一の三の事実について

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲五、七六、七七)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の3)

判示第二の各事実について

一  武田義忠の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲五七)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書(甲二七)、仕入高調査書(甲二九)、期末商品棚卸高調査書(甲三〇)、給料手当調査書(甲三一)、雑給調査書(甲三二)、福利厚生費調査書(甲三三)、接待交際費調査書(甲三五)、旅費・交通費調査書(甲三六)、受取利息調査書(甲四〇)、債券償還益調査書(甲四一)、雑収入調査書(甲四二)、役員賞与調査書(甲四四)、役員賞与損金不算入額調査書(甲四五)、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書(甲四六)及び事業税認定損調査書(甲四八)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲六二)

判示第二の一及び二の各事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(乙一一)

一  水間浩志の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲五五)

一  大蔵事務官作成の雑費調査書(甲三九)

判示第二の一の事実について

一  大蔵事務官作成の貸倒引当金限度超過額認容調査書(甲四七)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲八〇)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の4)

判示第二の二及び三の各事実について

一  大蔵事務官作成の期首商品棚卸高調査書(甲二八)、消耗品費調査書(甲三七)、会議費調査書(甲四三八)及び支払利息・割引料調査書(甲四三)

判示第二の二の事実について

一  真野欽也の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲五六)

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲八一)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の5)

判示第二の三の事実について

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲三四、八二ないし八四)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の6)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社はせべ

判示第一の各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

2  被告会社長谷部商店

判示第二の各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項

3  被告人

判示第一及び第二の各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑

三  併合罪の処理

1  被告会社はせべ

刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの。以下、同様)四五条前段、四八条二項

2  被告会社長谷部商店

刑法四五条前段、四八条二項

3  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、海産物等の販売・加工等を目的とする被告会社二社の業務全般を統括していた被告人が、被告会社二社の業務に関し法人税を免れようと企て、それぞれ三事業年度にわたり、被告会社二社合計で一億一九〇〇万円余を脱税したという事案である。

ほ脱税額はいずれも高額で、ほ脱率についても、被告会社はせべが通算約八三・五パーセント、被告会社長谷部商店が通算約八八・七パーセントと高率である。その主たる手口は、被告会社はせべに関しては、内容虚偽の売上伝票、納品書、請求書等を作成した上、被告会社はせべにおいて被告会社長谷部商店からの架空仕入を計上するとともに、被告会社長谷部商店においてこれに対応する被告会社はせべに対する架空売上を計上するなどしており、被告会社長谷部商店に関しては、荷主と仲卸業者の間に卸売業者を形だけ介在させて荷主から品物を仕入れる取引方法(直引取引)があることを悪用し、架空荷主との直引取引を装って架空仕入を計上したり、架空荷主名義で在庫品を処分して売上除外を行うなどしていたというものであって、誠に計画的かつ悪質である。また、脱税の動機をみても、被告人は、不安定な業界の中で、利益が出ているうちに被告会社二社の経営基盤を確立しておきたかったなどと述べているが、たとえそのような事情があるにせよ違法な蓄財が許容されるはずもないところであって、これらの諸点からすると被告人及び被告会社二社の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、他方、被告会社二社はその後修正申告の上本件に関する本税、延滞税、重加算税等を完納していること、被告人は本件犯行を深く反省悔悟し、被告会社二社の経理体制を改善していること、被告人には前科前歴が全くないことなど、被告人及び被告会社二社のために酌むべき諸事情も認められる。

そこで、当裁判所は、以上のほか一切の情状を考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、本文のとおり判決する。

(求刑 被告会社はせべ・罰金二二〇〇万円、被告会社長谷部商店・罰金一五〇〇万円、被告人・懲役一年)

(裁判官 平木正洋)

別紙1(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1(2)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1(3)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

ほ脱税額計算書

〈省略〉

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙3(1)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3(2)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙3(3)

修正損益計算書

〈省略〉

別紙4

ほ脱税額計算書

〈省略〉

ほ脱税額計算書

〈省略〉

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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